エゴ
―エゴだとしても、抱きしめたい―
雑誌をめくっていた手がそのフレーズに反応した。
自分の心の中を見透かされた気がする。
ふと雑誌から目をそらして、薄目で彼の背中を確認した。
気配を悟られぬように、盗み見る。
(抱きしめたい、のかもなぁ)
その欲求はため息と一緒に捨てた。
自分がしたいことが必ずしも相手が求めているとは限らない。
「あなたのために何かをしてあげたい」なんて、結局「してあげる自分自身が好き」なだけなのかもしれない。
あなたはうざったく感じますか?
なれなれしい、とか。
自分と彼の関係性について考えてみる。
こうやって私の部屋に転がり込んでいる時点で、私に気を許してくれているのだろうし……
カタチとしては言いたがらないけれど、世間一般から見ればカレシカノジョに見えなくもないのだろう。
総括すると、
少しは、あなたは私に好意を持っているとして、
その好意が、彼の感じるうざったさを我慢させてしまうのだろうか。
それでも私は、……
エゴだとしても……。
「抱きしめたい……」
「はぁ?」
ヒトリゴトが漏れていた、と自分が認識するより早く帰って来るツッコミ。
反射神経の差なのかもしれない。
「…い、いえいえ、なんでもないで………あ。」
私がごまかすよりも早く、すっと立ち上がった彼は私の読んでいた雑誌を取り上げた。
そして、ページと私を見比べた後で、尋問するように目をのぞきこまれる。
「…………」
息を飲んで、必死に感情や表情を殺したい、と一瞬だけ思う。
けれど、私の思考なんてすぐに読まれる、そう思うと諦めはついた。
「つまりですね、……自身の感情が引き起こす行動が引き起こす、他者の感情の変化……」
「……」
彼はジト目で睨んでいる。
「……ここのフレーズ。『エゴだとしても抱きしめたい』って何だろうって考えてたんです」
今度は私が彼の表情を窺う番だった。
「……エゴだろ、間違いなくな」
彼は「くだらない質問」とつけたして、興味なさそうに吐き捨てる。
「何がしたくて、何がして欲しくて。人間なんて、結局エゴのぶつかり合いだろ、
妥協点探して合理化してるだけだ」
模範回答みたいな、論理的で正確な答え。
「コイビトだとしても?」
「当たり前だ」
ただ、そう語る彼の目だけが寂しく見える。
「そうですね」
彼は正しい。けれど、私は付け足さずにはいられない。
「でも、覚えていて下さい。
私は……そんなエゴなら大歓迎ですよ。」
なんでだろう、彼といると、選択肢が一つ増える。
「私は、
いつだって、―抱きしめて欲しい―と思ってますからね。」
結婚って(いきなり飛躍)受け入れの連続ような気がします。
濃い味噌汁を我慢するとか、そしてそれに慣れるとか。
じゃなきゃ長くいられんよなぁ。楽しいだけではすまない。
モナコはエゴだらけなので、非常にストレス発散になったお話です。
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