彼女の泣き方
あいつは…、
どう振舞えば、人から愛されるか知っている。
何をすれば、人が注目するかも。
人を笑顔にする方法も、初対面の人間に対しての「話のネタ」も、心地よい頷き方も……。
ただ、泣き方が分からないバカモノだ。
だから、ときどき、思い知らせてやらなければならない。
その部屋の空気の重さにとまどいながらも、平然として見せた。
彼女の表情は分からない。
ただ、俺に視線も送らず、遠くに心を飛ばしているようだった。
(鬱状態、か…)
広げられたままの新聞には、遺族の訴えかなわず、棄却となったことを告げる記事。
発見された謎の変死体…誰でも良かったと述べた容疑者、過失による事故死、法律の穴を狙った犯罪、数年で許された罪の繰り返し……。
今日、犯罪の報道がされない日は無い。
「これがどうした?」
新聞に黒く塗りつぶされた部分なんかない。
「テメーが思いを馳せて何の意味がある?」
TVにはいつだって情報が溢れている。
「そーゆーとこが偽善者だって言ってんだ」
ネットなら、なおさら規制なんてない。
「犯罪の理由でも求めているのか?真理か?運命か?前世の業か?」
優しすぎることも、罪だ。
「他人にかまう余裕があるのか?」
自分で耳にするのも憚られる攻撃的な言葉の羅列。
それでも…彼女に必要なら、俺は何度でも傷つけよう。
彼女はいつだって被害者でなければならない。
絶対に、彼女が悪いことなどないのだから。
ただ、彼女は何も言えずに俯いたまま、肩を震わせた。
「テメーはそうやって立ち止まる理由を探してるだけだ」
「……そうなんです」
彼女は、大粒の涙を一つだけ零した。
苦しいなら泣けばいい、泣くことさえかなわないなら、いつだって泣かせてやる。
そんなに真っ白でいたいなら、他の色は俺が被ってやる。
加害者の俺にあいつがくれるものは…
「ありがとう、大好きです」
俺の知らない愛情。
ちょっとハードでディープですいません。
連載モノの、ネタばれになりますが↓
感情表現を制限された状況にいた過去の中で、
今生であっても「泣く」ことが苦手な彼女。
兄の善意の情報操作の中で育った究極の箱入り娘、
世の中の汚い部分にも目を向けていかなければいけないとしたら…
こうやって、辰巳和華は乗り越えていくんだろうなと思います。
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