Get stars in my eyes!
目覚めることは、分かっていた。
瞳を開くよりも先に、意識が覚醒し、部屋に由さんの気配がないことを探る。
それを確認して初めて、私はまぶたをゆっくりとあげた。
なるたけ音を立てないように身を起こす。
本来なら眠り続けるだけの薬を打たれた体は、鉛のように重く、反応も悪い。
ベッドから右足を下ろし、左手で体を支えながら、左足を出して立ち上がる。
スリッパから靴に履き替える。コートを羽織る。
ひどくゆっくりだが、確実に一つ一つの作業をこなしていく。
無駄に過ごす時間はない。
カウントダウンは始まっている。
大通りでタクシーを止める。
「…東京ドームまで」
いつもみたいに笑おうとしたけれど、顔の筋肉まで反応が悪い。
それでも愛想笑いくらは必死で作った。
フロントミラーに自分の顔が映っているのが見えて、私は目を逸らした。
勿論自分の顔だ。見なくてもどんな状態か分かる。
長い間眠っていたせいで、顔が腫れぼったくなって、特にまぶたが酷くて……。
こんな顔を人前にさらすなんて、普段なら裸足で逃げ出してる。
それでも、私は行かなくちゃいけない。
きっと、彼のためにできることがあるから。
シュミレーションは、十分に済んでいた。
タクシーを降りて、東京ドームを視界におさめる。
体は相変わらず重い。努めて平常に見えるように、しかし最短距離を歩いた。
ドームは、近づくにつれて大きさを増していく。
どこか焦る気持ちとは裏腹に、心臓がゆっくりと鳴っているのが分かった。