第19話




「あの……私、初めてなんです」

集団の先頭にいた辰巳和華が振り返ってそう言った時、デビルバッツのメンバーは目を丸くした。






教育実習終了まであと二日。

最終日には、実習生同士のお疲れ様会が入っていると知った部員たちは、それなら先に、と食事会を計画した。

食べ盛りの高校生が行くにはどこがふさわしいかと考え、結果「回転寿司」が選ばれたのだった。




「昭和には無かったんだと」

「なー!失礼な失礼な!」

ぴしゃりと言い放った蛭魔の一言に、部員たちは納得しそうになるのを隠せなかった。

今日び、回転寿司に行ったことがない者など信じられなかったからだろう。

和華はただ単に行く機会がなかっただけです〜と不満げに付け足した。




早めに部活を切り上げたとはいえ、店は閉店時間が近い、客も彼らのほかはほとんど見当たらなかった。

まもりは、テーブルに着くやいなや、てきぱきと世話をやく。

和華は、あんまり珍しそうにはすまいとじっとしていたが、一つだけ、蛇口からお湯が出てきた時には覗き込んだ。

「こうやって、お茶を作るんです」

彼女の視線に気づいたまもりが説明がてら、お茶を入れていた。

「うわ〜ジェネレーションギャップ…」

まもりからお茶を受け取りながら、和華は言った。




部活を終えて空腹の部員たちは、片っ端からお皿に手を伸ばしていた。

みんなの様子を見つつ、真似をしようと決めていた和華は、彼らのスピードに見とれている。

店員たちも閉店も近いことで気が抜けていたらしい、慌てて寿司の補充を始めた。



「お皿がいろいろあるんですね」

唯一、寿司合戦に加わっていないまもりに話しかける。

「……えっと、それぞれ値段が違うんですよね。これくらいは知ってるんです」

まもりは部員たちの積み上げていく皿を、種類別に分けていた。

「ええ。セナが食べてる白いお皿は100円で……逆に一番高いのが…」


「金のお皿?」

まもりは無言で頷く。

蛭魔の前に積みあがっていく金色の皿に不安を覚えた和華は、小声で彼に尋ねてみる。



「……あの…ここの支払いって」

「……ああ。まだ、言ってなかったな。

 糞空腹野郎共!心配いらねェ。ここは奢りだ」


おおお。と湧き上がる歓声。


「糞新米教師の」


「あああっ!そういうオチだと思ってましたよ!

 っていうか蛭魔さん、金ばっか取りすぎ!」


奢り、と聞いて遠慮心が出たのか手が止まる部員たちに大丈夫です、と胸をはって和華は笑った。

蛭魔を指差しながら、宣言する。

「最後の最後には、印籠出してもらいますから」

それが脅迫手帳であることは、蛭魔をよく知る者なら誰でも分かった。


「あああ!でもどぶろく先生日本酒いきすぎ〜」

「おお。寿司にはやっぱり熱燗だな」



店にあったネタを食い尽くした後、またまもりによってデザートのシュークリームも無くなった頃、ようやく部員たちの空腹は満たされたようだった。


席をたっていた蛭魔が戻り、一枚の紙切れを差し出した。

「……ああ…とうとうお会計の時が…」

おそらく伝票だろうと見当をつけ、和華は怖いものでも見るかのように薄目でそれを見る。

しかし、蛭魔の口から出た一言は意外なものだった。

「ツケといた」

すでに支払いは済んでいるという意味だと気づき、和華は当然のごとく疑問をぶつける。


「ど、どこに?

 校長先生じゃないですよね…

 部費?……でもないですよね」

「サーペントドラゴン株式会社。

 ……センスねぇ名前。

 辰巳を直訳でドラゴンサーペントか?」

和華は、何で知ってるんですか?と叫ぶのを飲み込んだ。

サーペントドラゴン(株)ファンタジーのモンスターみたいな名前だが、それは父の起こした会社の名であり、現在は兄が仕切っているものだった。

「上場とかしてないはずですが…」と和華は拗ねた口調でつぶやく。

「非公開株だろ。まー上場なんかしたら影響力ありすぎるからな」

「……そうなんですか?」

「ケケケ」

お決まりの笑い声だけが彼女に帰って来た。


「……私だけ、会社のこと何も知りませんでした、けど……

 でも兄さんが、いいって言ってくれたんです。

 やりたいなら、やってもいいって」

 蛭魔に報告するように、和華は言った。

兄との確執があったことを知っているのは、彼だけだった。

残り少ない時間の中で、兄との問題が解決したことを蛭魔には伝えておきたかったのかもしれない。


「和華センセーお会計は〜?」

「あはは。お会計済みで〜す」

蛭魔から渡されていた明細票を左右にペラペラと揺らして和華は言った。

「糞チビ顧問」

「……はい?」

まだ、何かあるのかと彼女は首をかしげる。

「それ桁間違ってねーからな」

言われて明細を見た和華は、目まいで倒れそうになるのをなんとかこらえた。



副題。『オイ、どうする!すでに19話』です(笑)
ホントは栗田クンが大食いチャレンジするとことか、(流行の)書きたかったのですが、
収集つかなくなりそうだったのでカット。
回転寿司でシュークリームがまわっていたなら、けしてまもりちゃん以降は流れない…だろう。
あはは。
モナコは回転寿司はめっきり5皿+金の液体です。
ギャル曽根くらい食ってみたい。そして痩せていたい。

ていうか、この回(も)推敲せずにアップしてしまった。
あと二回+エピローグで終わりの予定です。



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