クリスマス前に。




クリスマスに飾り付けられた街は、カップルたちを溶け込ませていた。

けれど、彼らを見つけ出すひねくれ者もいるのだ。








寒さを分け合うようにしっかりと手をつないでいるカップルとすれ違う。

それがやけに目に付いてしまう。

私の右手も左手も、空っぽだった。



私の1メートルほど先をあるく蛭魔さんの手は、両方ともジャンパーの中に収められていて見ることはできない。

その手が蛭魔さんのものでさえなければ、私はおどけて簡単に触れることができるのに。

けれど、私が触れたい手は蛭魔さんだけなのだ。




駅からは少し外れたここでも、人通りは多かった。

やはりクリスマスが近いからだろう。

ここ最近の疲労が重なっているのか、下向きがちな視線を幾度も持ち直す。



すると、見知った顔を見つけた。

「や……」

弥生ちゃん、と呼びかける声を蛭魔さんの左手に制される。

ちょうど私の顔の前に出された左手を睨みながら、眉をひそめて言う。


「…何ですか、蛭魔さん。

 先に声かけないと後になって、私が無視したとか、そういうことが問題になるんですから」

普段、そんなに親交がない女友達には特に。


そんな私の抗議も、さらりと受け流すように、蛭魔さんは口の端をあげた。

「……」

視線だけで、よく見てみろと言われ、私は再び弥生ちゃんの方に目をやった。

彼女の隣には、同じくらいの背の男の子が立っている。今年のクリスマスをどう過ごすか話しているのかもしれない。

(カップルでいたって、挨拶くらいはしとかないといけないのに)

横目で蛭魔さんを見ると、不敵な笑みを浮かべていた。

彼が私をからかっているときの表情だ。

ますます腹がたって、顔を大きく上げると、弥生ちゃんたちの頭の上で光る蛍光色が目に入った。



「…………!」


耳まで赤くなるのが分かった。



「ケケケ。糞ニブ女……

 あーそれとも一緒に楽しみたかったか?」


もはや、彼の軽口を受け流すことができず、とにかく一刻も早くこの場を去りたい思いでいっぱういだった。


すぐさま彼の左腕を取ると、出来る限り早足で入り組んだ道へと入った。

「ケケケケ」

後ろからは蛭魔さんの笑い声が響いていて、私は弥生ちゃんに聞かれてしまうのではないかとヒヤヒヤしていた。



彼らからはもう米粒ほども見えなくなったと安心できたところで、私はやっと足を止めた。

息を整えるように、ゆっくり息を吐いた。



「……無意識だとしても露骨だな」

蛭魔さんの言葉の意味より、安っぽいピンクの光に囲まれたていることに気づいた。

見回すが、退路である道は一本しかなく、自然と足は後退していく。

蛭魔さんもさぞ困惑しているだろうと思ったが、彼は冷めた目で私を見ていた。

「……んな心底嫌そうな顔すんじゃねーよ」

「……そ、そんな顔してますか?」

頬に両手をあて、今動いている顔の筋肉を思い浮かべようとするが、思い当たる自分の表情はなく、こわばっていると分かっただけだった。

唇の端が痙攣しそうだ。

とりあえず、この場所から脱する方法を考えて、駅の方向……分からない。またとりあえず歩く……いえいえ、今度は180度どころか360度いか
がわしい場所に囲まれたらどうしよう…

隣に立っている彼が、もはや味方なのか、それともこの場所よりも危険な存在なのか、理解に苦しむ。


下を向いていると、目の前に左手が差し出された。

他の人から見れば「凶悪な」とされる笑顔も、私にとっては見慣れたもの。

「今日のところは、こいつで勘弁してやる」

私の小さな手に、長い指がもてあまし気味に絡まる。

触れたかった、彼の手に引かれて私たちは歩き出した。

「…………けど……言っとくけどな」

前方だけ見据えて蛭魔さんはつぶやく。


「今生も処女でいられるなんて思うなよ」

思わず振りほどきそうになった手を、彼が強く握った。




メリークリスマス!(遅)すいません突発的に勢いで書きました。
我慢できなかった〜。

モナコは今年ツリー出さず。
みなさんはいかが過ごしました?
さて、前回の携帯番号交換から続いて、
今回は「手をつなごう」回でした。
モナコは会ったその日に○○、
○○、の上○○。
(良い子は想像しちゃいけないよ)
なだけに、こういうスローな展開に憧れるのかもしれません。
それにしたってスローだけど。

健全やね〜。

というわけで、来年も宜しくお願いします。




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