性-SAGA-



○第四話 天照大神?




「糞デブが腐らねぇうちにエサやってこい」


半分は優しさ、そしておそらく半分は強制でできた書類を持ち、和華はそこに立っていた。

栗田くんの家がお寺だと聞いたことはあったが、いざ目の前にすると足がすくむ。

慎重に一歩を踏み出して、敷地内に入ると、くるくると頭を回し、母屋を探すことに専念した。

(……あれ。あっちから声が……)

声に導かれるように、本堂を回りこんだ所から覗き込むように顔を出す。

と、生活している雰囲気がある建物が目に入った。

「××××××××」

思いがけず、モザイクなしの声がそこから響いた。




「な、な、な。

 真昼間から何やっとるか〜!」

反応があったのは、期待していたのとは別の場所だった。

栗ちゃんのパパによって、襖はノックなしに乱暴に開かれた。

でも、誠に残念ながら彼が期待したような光景はない。

「なんにもやってないよ〜」

両手をホールドアップして、あたしは言う。

お宅の息子の栗ちゃんには、まだ指一本触れてませんという証だ。

「だ、だが。

 さっきの声は…」

震える手であたしを指差す。

ビデオなんかじゃない。さっきのはあたしの生声だ。


「れんしゅう。本番の」


「まぎらわしいんじゃ破廉恥女〜!」


「……だって。栗ちゃんに元気だしてもらおうと思って!」


「………」


「……せめて…そっちだけでも、と!」


「出ていけ〜!」


襟元を掴まれて、あたしは外の廊下へと引きずられる。

全く、坊さんのくせに気が短い……神聖だからこそあたしを見逃せないのかもしれないけど。

乱暴に放り出されたあたしは、腰をさすりつつ顔をあげた。

すると、思いがけない人と目が合った。


「あれ?……和華センパイ?」


「!!!!!!」


「……む。どなたですか?」


「!!!!!!」


「…あ、栗ちゃんに用ですか?

 パパ。こちらアメフト部の元顧問の辰巳和華先生です」


「だ、誰がパパか!

 ……こ、これはお見苦しいところを」


「……レミちゃん!

 まさかそんな……栗田くんのお父さんも……」


「……?」


(あ、これはなんか勘違いしてるな)


「ま。まさかさっきの……その……声を聞いた…とか?」


「……そ、そりゃ愛は年齢なんて関係ないなんていいますけど…。

 栗田くんのお父さん、息子さんもいるのに…」


「和華センパイ!

 この人がムリヤリ……」

言うなりあたしは和華センパイの後ろに隠れた。

さっきの仕返しだ。

「!

 栗田くんのお父さん!

 そんな!」

「ちょ、ちょっと待…

 ってこの破廉恥女ー!」

さらにあたしは、センパイには見えないように舌を出したのだった。






「も、も、申し訳ありませんでした」


「いえ。わかって貰えればそれで」


事情を知ると、和華センパイは平謝りした。


「ほら、レミちゃんも謝って」


「なんでですか!あたし悪いことしてないしぃ」


「……ユウに言います」


「今のユウ兄貴なんて、全然怖くないし」


「じゃあユウのお姉さんにちょっと根性入れてもら」


「ご迷惑をおかけしました」




また話がややこしくなっても困ると、あたしたちは場所を変えた。

栗ちゃんの部屋の手前、最近あたしが押しかけている部屋だ。

「それで……なんでレミちゃんがここに?」

「あ。彼女候補なんです」

「……」

「ちが。だからあのパパ坊主じゃなくて、栗ちゃんの方の」

「そっかぁ。……ってええ!」

「ま。いいじゃないですか。

 ……で?和華センパイはなんでここに?

 栗ちゃんなら、夏休みに入ってから全然部屋から出てこないんです」

「……うんとね。ちょっと、栗田くんにお届けものがあって」

「でも、出てこないんじゃ困りますね」


あたしは閉ざされた襖に近づくと、顔をよせて叫ぶ。

「栗ちゃ〜ん!

 和華センパイが来たよ!」


「……んん…」


「アメフト部の顧問の和華センパイだよ?」


「……もうほっといて……」


「……む。

 ほら栗ちゃん。あたしがヌードになってるよ!」


「!」


「見なきゃ損損」


「ち、違うよ〜」


何が違うのか分からないが、襖はぴくりとも動かない。



「レミちゃん、栗田くんを動かすにはこうやるんだって。

 いい?」



和華センパイはそういうと、襖の前で囁くように言った。


「蛭魔さんが、アメフトやろうぜって!」


どん、とすごい音の後、枠から外れた大きな襖がこちら側に倒れてきた。


「ひ、ヒルマが!?

 ヒルマがそう言ったの?」

目をキラキラさせて、栗ちゃんが立っている。……ヒルマ……聞いた名前だけど。

和華センパイはゆっくりとうなづくと、真顔で茶色い封筒を栗ちゃんに差し出した。

訝りながらも、栗ちゃんが逆さにすると、何枚かの紙が散らばる。


「……何これ……」

「蛭魔さんと考えたんです。栗田くんにとって一番いい方法」

「アメフトが強い日本の大学……の中で、スポーツ推薦があって、評定がクリアできそうなところ」

「……なんで。デビルバッツは…」

「大学受験しましょ。今からでも間に合わせますから」

「……ヒルマは?ムサシは?」

「栗田くん。みんな、ずっと一緒にはいられないんですよ」

「…だって、ヒルマが一緒にアメフトやろうって……

 う、うそつき〜」


目にいっぱい溜めた涙を隠すように、栗ちゃんは自分の部屋に逃げ込んだ。

頭から布団をかぶって、隠れるようにしている。


「…………嘘じゃないです。

 アメフトを続けていれば、いずれまた…ってそういう意味なんじゃないですか?」

優しく問いかける和華センパイの声に、布団の震えが止まる。


「……でも、大学なんて…

 ボク頭悪いし…」

「今からやれば、間に合います!

 ヒルマさんのお墨付きですよ!」

ヒルマという名前が栗ちゃんにとってどれだけ大きなものか、あたしは知った。

万能な名前だ。栗ちゃんを部屋から出させたり、元気づけたり…。


それに比べてあたしは…


「ね。栗田くん。だから布団から出…」

「布団プレイなら!あたしだってヒルマに負けないんだから!」

彼から布団を引っぺがせないのなら、とあたしは中に侵入した。

「……ぎゃっ」

「ぐえっ」

「うわっ」

「…わ、分かった。出るから、出るよ」


「……いたたた。ずいぶんハードなプレイ」

狭い布団の中で暴れるから、腕やら足やらいろんな部分がぶつかってきた。

…栗ちゃんも同じような思いだろうけれど。



「……和華先生、レミちゃん。

 ボクなんかのためにありがとう」



「もう、逃げない?」

「うん」


「やる気になった?」

「うん!」


「え?栗ちゃんホント?」


『いや、そっちの意味じゃなくって』

和華センパイと栗ちゃんのツッコミが見事に重なった。




デビルバッツが素晴らしいチームだったから、
はいおしまいっていう風に心の切り替えはできなくて。

だから次のステップを踏み出せずにぐらついていたんだと思います。



いや、ホントは大学見学行く予定だったんだけれど。

……3年一学期終えての評定がいくつなのか分かりませんが、
まだ志望校決まらないんじゃない?と思って。

いざとなれば評定、ヒルマさんがなんとかしてくれそうな気もしますが、
きっと努力はさせるんでしょう。


っていうか、ぶっちゃけこの回に必要だったのは、
××××!



栗田さんが復活したよ
です。

みなさんは××××にどんな喘○声をいれましたか?
ぐへ。



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