原作沿い2





『飯と風呂』

とだけ書かれたメールを読み返して、私は微笑んだ。


パタンと携帯を閉じた音が、青空の中に吸い込まれていく。





蛭魔さんが家に来る前に、決まってそのメールが送られてくる。

そして、慌てて私が準備し始めた10分後にはチャイムが鳴り、コンビニの袋を片手に、彼は玄関に現れるのだ。



10分間の猶予時間は「10分でできるだけの事はやった」という満足感を与えてくれるのだ。

そして私に負担をかけまいと、ご飯を買ってきてくれる。

その気遣いと、粗野な優しさが本当にうれしかった。



(良かったですね、晴れて……)

蛭魔さんにそう言えば、「何を根拠に」と返されそうだ。

西部対白秋。

どちらか勝ったほうと泥門は闘うことになる。

蛭魔さんは結局、どちらが勝つとも、どちらと闘いたいとも言わなかった。

ただ言わないだけで、心で思うところはあるのかもしれない。

……それでも、


いい天気で、悔いのないプレーをするほうがいいに決まってる。

どちらかが勝ち、どちらかが敗れるのだから。



腕時計に目をやると、1時は既に過ぎていた。

試合を観戦する者たちは既にスタジアムの中なのだろう。

こうして、早足でスタジアムに向かっているのもおそらく私一人。


デビルバッツのメンバーも、スタジアムの中にいるはず……私が来ていると知ったら、びっくりするかな。

彼らは西部が勝つことを望んでいるのかもしれない。

東京大会のリベンジをするのだと、モン太くんやセナくんは息巻いていそうだ。



そう、彼らが戦うのを見ていたから、私も教員採用試験に挑もうと決めたのだ。



天下のT大に入学した頃は、教養基礎授業に苦しんだ。

……高校の授業の延長のような英語などは、取り扱うテキストが難解すぎて、全く着いていけなかった。推薦ゆえの悲しさだろうか。

もともと持っているレベルが違うのだ、と諦めて万全の予習と復習。自主休講なんて夢のまた夢。単位を落とさないために皆出席。それから試験の
前には、得意の人脈で過去問を得て…。

しかし、今は兄の母校でもある、T大の利点を噛み締めている。

現役で教員採用試験に通った先輩たちがその道を示していて、教えを請うことができる。

このテキストがいいとか、こんな風に勉強したとか。

顔を出しているサークルなら10を超えている。広く浅く気づいた人間関係も、この時期になってひどく役に立っていた。




「おおおお」

目の前のスタジアムから大きな歓声が上がった。

どんなプレーのどちらのチームの、どの選手に対しての歓声なのか。

想像しながら、私は歩みを速める。



入り口を通りぬけて、暗いスタジアムの中へ。

軽食を売る小さな売店などがあったが、いずれも客の姿は見えなかった。

みな試合そのものから目が離せないのだろう、勿論私もすぐその一員となる。


靴音を響かせながら、進む。

暗く暗く囲んでいたコンクリートの天井が一気に開けて、暗闇に慣れていた目を光が刺激した。

もはや、視界は360度と言ってもいいのではないだろうか。

広すぎて、めまいがして、なかなか視覚情報を理解しきれず私は立ち尽くした。



「わあああああ」


近くから上がった歓声に、我にかえる。

フィールド上には見知ったユニフォームと、もう一色。

(どちら、どちらが勝っているの?)

電光掲示板に目をやったけれど、気持ちが落ち着かず、なかなか把握できない。



1stQ……良かった。まだそんなに経ってない。



(14−8)


えっと、タッチダウン2回と……8?

8……フィールドゴールと…いえ、計算が合わない。


(ツーポイントコンバージョン?……そんなまさか)

通常ゲーム終盤でしか見ないような、ギャンブルだ。



(8点は……白秋。西部が勝ってる)

西部の得点力に対抗するためには、そういうギャンブルを成功させていくことが必要…そういうことなのだろうか。


再びフィールドに視線をもどすと、何か悪寒が走った。

肌があわ立つ、……阿含さんと対峙した時のことを思い出した。



誰……。

スクリメージラインを超えて、突破してしてくる者がいた。

避けるとか倒すとか、そういう類のプレーじゃない。



破壊……。



一瞬キッドさんからボールが放たれるのが遅れ、

そのまま、

彼を飲み込んだ。




え?

ただのQBサック。そんなもの見慣れている。


でも、心が警報を鳴らしている。




視界がぶれていた。

そこにいるのは西部のキッドさん。

けれど、重なる。

(ヒ・ル・マ・さん!)

自分の口から声にならない悲鳴が上がった。




体中の力が抜けて、私はコンクリートの壁にもたれかかった。

タンカが用意されるのが見えて、私は恐怖でいっぱいになる。





どういう状況なの?

脳震盪、それに……骨折?




これ以上見ていられない。

だから、明るい世界から暗い世界へ逃げた。


(ダメ。

 あんなのは絶対にダメ)


避けなければいけない。なんとしても。

でなければ、……時夜のように、彼は帰ってこなくなる。



(私に何ができる。

 何がやれる)



震える体を抑えるように両手で抱いた。

私を支配している感情……。

……狂気。



もはや恐怖はない。行動すると決めたから。




あたしは何ができる?



もし、もし


蛭魔さんがあんな目にあったら?



(体を取り替えて。

 いえ、右腕だけでも)


冷静でいられる自信など欠片もない。



(想像だけで、……私、狂気に犯されてる。

 でも、止められない)



最悪の状況を止めなきゃいけない。


今すぐに、フィールドに下りて、刺し違えたい。

 
今ならば何のためらいもなく引き金を引ける自信がある。



(ダメ……それは我慢する。

 だから、わたしは……)





完璧な笑顔を作ることなど、たやすくて。

それはいつもどおりに顔の一部の筋肉を働かせるだけだった。

「あの……取材の方ですよね?」





「私、峨王くんの

 知り合いなんですけど、インタビューするところ撮ってもらえませんか?」


笑顔など、何の感情も必要としなかった。







意外と和華視点で見た西部白秋戦て面白いんだ、と気づきました。
試合途中から、白秋について何も知らなかったからこその理解ですね。
しかし、すいません。私にそんな高度な描写は無理でした。


今知ったのですが、(オイ)
NFL以外はTFPでファンブルなりインターセプトでターンオーバーしてもOKで、
そのままエンドゾーンまで運べば2点入るのだとか。

(私はプレー終了だと思ってましたTFP失敗で)


アイシー読んでて、「何?ちょっとどうなったからわかんないんですけど」
とかなっていたのは、もしかしたらこのルールを知らなかったせいもあるのだろうか。


試合運び、今のシーンって、残り時間何分で1stダウンなのか残り何ヤード時点なのか。
アイシー読んでいるとたまにすごく気になるのですが、


ちょっと一回、全ての試合を編集なしでリアルタイム映像化してくれないかな。

アニメ復活で1試合ずつ。

となるといきなり……恋が浜戦か


あれを4、5時間見るってのは、ちょっとファンでもきついわな。



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